オレの名は、ナツ・ドラグニル。
　魔導士ギルド『妖精の尻尾』に所属する滅竜魔導士だ。火竜のナツといえば、この界隈じゃその名を知らないやつはいない。……別にヘンな意味じゃない、そのくらい強力な魔力の持ち主だってことだ。
　訳あって、現在絶賛尾行中。
　ターゲットは、前方に見えるあのブロンドだ。そう、あの色白で、ぱっちり二重で、華奢なボディに不釣り合いな馬鹿でけえ乳した、あの女だ。そうだ、けしからん乳だろう、まったく。
　今あいつが一緒にいる男、実はああ見えて悪の変態組織の手先で、女を狙っている。理由？そんなもんは簡単だ。隙あらば物陰に連れ込み、あのクソいまいましい氷の拘束具で手足をホールドしたあげく、けしからんムッチリボディにあんなことやこんなことを……ハァハァ……しようと……ハァハァ……考えているに決まっている。現に、あいつの脱衣スキルは、評議院の連中も目をつけるほどやばい代物だ。
　……畜生、楽しそうにしやがって……じゃなくて、オレはあの女を尾行して、あの変態の魔の手が及ばないよう見張ってやっているってわけだ。
　堂々と混ざれだと？バカめ、このオレを前にしてあいつが変態の正体を見せるようなマネすると思うか？
　……ってあいつ近づきすぎだろ、おい、何やってんだよルーシィ……じゃなかった……ええっと、つまり、オレがこの黒いフード付きのマントに身を包み、こんな狭いところへ身を隠してはいるのはそういう理由で、決して怪しいことをしているわけじゃねえ。
　……チッ、こぼしてんじゃねえよあいつ、あれ絶対わざとだろ、あああああてめえグレイどこ触ってんだコラ！って何顔赤らめてんだよルーシィィィイ……つかその服なんなんだよ、かわいすぎんだろ……じゃなくて見せすぎなんだよバカ、長袖持ってねえのかよ、な、が、そ、で！……オイ、ちょっと待て、あれ透けてるよな、透けてるよな！？え？透けてんだろおおああああああグレイてめえ邪魔だよ！おまえの！頭で！見えねえだろーが！貴重なオレの！思い出のワンシーンが！！……マジ許さねえ、あの変態クソ氷野郎、今日こそは絶対トドメ刺してやる、だいたい
「だいたいただ単にちょっとひとより巨大な脂肪の塊がついているからといって、みんなからちやほやされるだけでは飽きたらず、ジュビアひと筋のグレイ様にまで手を広げるなんていくらなんでも道理が通らないとジュビアは思うそもそも巨乳というのは昔から頭の悪いバカ女の象徴で、そんな脳味噌空っぽな小娘を理知的で大人でクールでとにかく素敵なグレイ様が本気で相手にするわけがありませんきっとあのロケット爆乳でグレイ様を誘惑」

――この女、ジュビア・ロクサー。
　別に相棒とか仲間ってわけじゃねえが、何故かあの変態に熱を上げていて、こうして現場に居合わせることがしばしばある。こんな遠くの物陰からじっとあいつを観察しているだけで、特にオレのジャマをする訳でもないからとりあえずは放って置いているが……まあ物好きがいたもんだ。つーか、そんなに好きならさっさと告白でもして、変態の魔の手からルーシィを遠ざけて欲しいってもんだが……こいつ、潤んだ目で『グレイ様〜』とか言って見守るだけで、行動を起こしやしねえ。いわゆるストーカーってやつだ。いやはや、硬派なオレにはさっぱり理解できねえが、相手に気づかれもしないで嬉しいのかね。

　……ん？なんだ？……オイ、うそだろ、……なんかあいつこっち見て……って、近づいてくんぞ、おい、まさか
「……あんたね、いい加減にしなさいよ、ナツ」
　……ストーカー女のせいで目立っちまったじゃねえか。あいつどこ行った。
「……なんの話だよ」
　はぁ〜、ルーシィの匂い……じゃなかった、ってか近え、うお、目合った！
「しらばっくれても無駄よ、毎日毎日コソコソつけまわして！……っていうか、あんた勝手に部屋にも入ってるでしょ！なに考えてるのよ、普通にできないわけ、普通に！」
　……なんでバレてんだ、この女侮れねえ。……え、何これ怒ってんの？やべえ、怒ってるよ！クソかわいいじゃねえかチクショー。
「おまえなあ、そういうの自意識過剰っていうんだぞ。せめてもうちょっと色気を身につけてから言え」
「キィー！あんたに言われるとなんかすごく腹立つ！」
　ふん、グレイのやつジュビアに捕まってやがる、バーカバーカ！ざまあみろ、そのままどっかいけ。
「なあルーシィ、オレハラ減ったんだけど、なんか作ってくれよ」
　今のうちにこっから離れねえとな、悪の変態組織に見つかんねえうちに……。
「はあ？なんであたしが……」
「おまえ、何こぼしたんだそれ？みっともねえからこれ着とけ」
　だから、透けてんだっつーの！マジで直視できねえだろーが、っていうより他の奴らが見ちゃうだろ！アホか、気づけ。
「……あ、ありがと……ナツ」
「……おう」
　……どう、いたしまして。ってなんだこの展開……。
「着替えついでに家戻るから、あ、あんたもくれば」
「え」
「い、言っておくけど、簡単なものしか作れないわよ、急に言うんだもん」
「……」
「今度来るときは、ちゃんと材料用意しとくから、早めに言ってよね……って、ナツ、聞いてる？……なんか顔すごく赤いけど、大丈夫？ねえナツ……」

　……ルーシィの白魚のような手がオレに触れた気がして、薄れ行く意識の中で激しく興奮したことは言うまでもない。