スイート・ペイン・イン・チェインズ
第九話 蟷螂の斧

 ナツは触手を躱しつつ、この半透明の巨大な物体にどこか弱点のようなものがないか探っていた。本体が巻き添えになるのを嫌がってか先程から攻撃もワンパターンで、海蛇のような独特の動きさえ見切ってしまえばどうということはなかった。
「めんどくせえ、このままじっくり時間をかけてまるごとバーベキューにしちまうか」
 と、ナツが魔力を収束させるために集中しようとしたその時、先程からドーム状の本体にしがみつきながらも、すばしっこく動きまわる少年に向かっていたずらに攻撃を繰り返していた触手たちが、突然ピタリと動きを止めた。
「……い、いい、におい、おお、お、おんな、の、においが、す、する、ぞ、あ、あ」
「……?」
 次の瞬間、水中から顔を出した無数の緑色の細長い物体は、その全てが空へと一気に伸び上がった。我先にと互いに絡み合いながら向かう先は、今まさに触手たちの捕獲範囲に空から飛び込んできた鳥の少女だった。
「リサーナ!!」
 ナツは振り仰いで叫んだ。さっき見た時よりかなり低いところに少女の姿を捉えて愕然とする。
「ウソだろ……なんであんなところに……」
 触手たちは予想をはるかに上回るスピードであっという間にリサーナに迫り、それがとてもひとりで太刀打ちできるような数でないことに気づいた時には既に遅かった。それぞれ一本一本が確実に狙いを定めて躍りかかり、少女は空中でなすすべもなく絡め取られた。
「キャアアア!!」
 身体の自由を奪われると同時にリサーナの背中の羽根がポンと消えた。彼女の胴体や手足に巻き付いて拘束していただけの触手が、突然かけられた重力で大きく撓む。
「うぐっ」
 引き戻した反動で触手の一本がみぞおちに深く食い込み、リサーナは気を失いそうになった。
「てめえっ、リサーナを離しやがれ!」
 ナツの言葉を嘲笑うかのように、グランド・イーターはくたりと抵抗しなくなった少女の身体を持ち上げ、さらにがっちりと固定した。リサーナが苦しそうに顔を歪める。
「げっげげ、げ、っげ、つ、つかかかまえた、あ、あ、おで、が、つか、ま、まえた」
 ざらりと鼓膜を撫でるようないやらしい笑いだった。
(オレへの攻撃にまったくキレがなかったわけだ。最初から狙いはリサーナだったってことかよ)
 弱点こそ見つけられてはいないが、ナツはこの化け物の習性のようなものをなんとなく感覚で理解してきていた。人語を操り解するということ、そしてその手段や理由も。
「クソッ、ただの下等な軟体生物ってわけじゃなさそうだな」
 下等どころか、人間と変わらない知能を持っている可能性もある、とナツは感じていた。手の届かない上空にいたリサーナをおびき寄せるために、ナツを自らの懐へ誘い込み泳がせたということだけではない。おそらく襲撃のチャンスは幾度もあったはずだった。巨大魚との戦闘中も、ひょっとしたら水中に息を潜めていたかもしれない。今だって、ふたりまとめて水中に引きずり込むことなどわけはないだろう。
 ならば、それをしない理由はひとつだ。
(この野郎、遊んでいやがる……!)
「げっげ、げっ、この、おお、おんな、お、おでの、よめ、よ、よめに、する、ぞ」
「!」
 リサーナがぎょっとして顔を上げた。
「なんだとコラ」
 ナツはつい苛立ちを露わにし、届く範囲にあった触手を掴み引きちぎった。先ほどあんなに大げさに痛い痛いと騒いだくせに、今度はまったく反応を見せなかった。ナツは手当たり次第に半透明な緑色の蛇を素手で破壊し続ける。それらの中にはリサーナを拘束している触手の一部につながっているものもあったが、本体から切り離されて壊死すると同時に、すぐに新たな一本が水中から現れて巻き付いた。かといって、ナツに対しては特に攻撃を仕掛けるでもなく、まるでそのいたちごっこを面白がっているようだ。
 と、引きちぎった一本がリサーナの喉元を締め付けていた触手にあたった。それが灰色に変わって首からずるりと外れた一瞬の隙を、リサーナは逃さなかった。圧迫されてぎりぎりの呼吸しかできていなかった肺いっぱいに空気を吸い込むと、なりふり構わず叫んだ。
「ナツ、私のことはいいから今は戦いに集中して!」
 その声に、ナツはハッと我に返る。
「グランド・イーターに内臓はないわ!心臓の役割をする魔水晶みたいな動力源が、そのドーム状の身体のどこかに……むぐぅっ」
 新しい触手は喉元でなく、リサーナの顔に巻き付いて口を塞いだ。同時に拘束していた両手首をぐいっと上に引き上げ、足もまっすぐに伸びるようにピンと張らせた。磔のような格好だ。
「リサーナ!!」
「んーっ、んんー!」
 魔物は黙っていたが、その身体からは怒りの波動が伝わってくるのがわかる。リサーナの言葉で冷静さを取り戻しかけていたナツだったが、いま確実に状況が変わったことに再び焦りを覚えていた。
「お、お、まおまえ、や、やっぱり、じゃ、ま、じゃ邪魔だ、な」
 静かな魔力の圧がナツを威嚇するように取り囲んでいる。じりじりとそれが近づいてくるのを感じて少年は二、三歩後じさって身構えた。
「はっ、遊びは終わりかよ、クラゲ野郎」
 ナツの煽るような声音に、グランド・イーターはわかりやすい反応を示した。透明なチューブの中を満たしていた蛍光の黄緑がちかちかと発光しながら、その色を少しずつ赤く変化させ始めたのだ。
「……へえ、どうやらよっぽど都合の悪い話だったみてえだな」
「おまえ、ころ、す、邪魔すすする殺すころす」
 パシャン、と触手の一本が水面を叩いて沼へ沈んだのを合図に、足場であったドーム状の物体がひとまわり膨張した。続いてナツの立っていた中心部分がぐにゃりと形を変える。
「おっと」
 ナツはすぐに体制を立てなおしたが、赤く光る触手がムチのようにその身をしならせて襲ってきた。すんでのところで上体を屈める。鋭い一撃は桜色の髪を水平にかすめ、ひゅん、と空中を一閃してその先で水面から顔を出していた別の触手たちを次々に切り裂いた。
 その間にさらに別の一本が下方から伸びてくる。蛇のように這い、音もなく少年に近づくと左足首にするりと巻き付いた。
「しまった……!」
 ナツは慌てて低い体勢のままそれを掴み、捻り切ろうと力を込めたがどうも先ほどのように簡単にいかない。
「くっそ、こんなのチートじゃねえか」
「げ、げっげ、そんな、ちか、力じゃ、あ、げっげ、む、無、理だ」
 スライムの魔物は楽しそうに言い、事も無げにナツの身体を宙吊りに持ち上げた。
「てめえ、なにしやがる、離せコラ!」
 暴れる少年をどこか恭しい仕草で一定の高さまで運ぶと、グランド・イーターは軽くスナップを効かせて思い切り沼の水面へ向け触手を振り下ろした。ビタンと派手な音を立てて無様に顔面を叩きつけられたかと思うとそのまま沼に沈められ、ナツは水中で呻いた。すぐに引き上げられ今度は反対側へはたき落とされる。息を継ぐ間も与えられず、ナツは弧を描きながら沼の上を左右に数往復した。
「うげっ、気持ち悪りい……」
 ゼエゼエと肩で息をしながらつぶやく。物理的なダメージはさほどでもなかったが、ナツは全身水浸しで片足を吊られながら干物のようにぐったりしていた。生き物の上ならば乗り物酔いの症状はでないはずなのだが、逆さまにぶら下げられた状態で振り回されてはたまらない。
(このヤロー、調子に乗りやがって……見とけよ)
 魔物の動きが止まったのを見計らって、ナツは左足先に意識を集中した。ぼっと炎が灯り一気に燃え上がる。
「いい加減に……離しやがれ!」
 ナツはさらに魔力を一点に収束させた。火は小さく形を変えたがその熱は鋼鉄を溶かす程にまで上がっていた。足首に巻き付いている触手の一部に狙いを定め、的確に放たれるようコントロールする。やがてちりちりと焼けた鉄板に水滴が跳ねた時のような音がしはじめた。
「キャアアアア、イタイイタイ!」
 突然、甲高い女の声でグランド・イーターが叫んだ。同時に触手の締め付けが若干弛んだのがわかり、ナツはしめたとばかりに、空中を蹴るようにじたばたと足を動かした。
 だがその時、直立していた触手が最後の力でゆらりと傾いた。その反動で足に絡みついていたものがずるっと外れる。
「うおぁあああああ!?」
 灰色に変わった触手の残骸とともにそのまま落下し、ナツの身体は水面ではない何かに叩きつけられた。



「ナツーーー!!」
 リサーナは、ナツがいたぶられ続けている間もずっと空中に磔にされたまま、その一部始終を見ていた。
 この化け物が欲しているものが、人間の持つ本質的な嗜好や欲望――死の間際に見せる、生への剥き出しの執着や、自分さえ助かれば仲間を売ることも厭わない醜い感情――だということは想像がついた。今まで襲って来た人間たちが皆、残酷な死を目前にして豹変する様子を見て『人間とはこういうものだ』と考えたせいだろうか。ひょっとしたら、身体に摂り込んだ彼らの最後の思考や感情がそのまま反映されているのかもしれない。それらを糧にすることこそが喜びなのだとすれば、ただ単に獲物を殺して喰らうなど、この化け物にとっていまやなんの意味もない。間違いなく、自分たちをあっさり楽にすることはないだろう。
 グランド・イーターがその蛍光の緑色の身体を赤く変化させてからは、手足の拘束はさらに隙がなくなり、もがくことも声を出すこともままならなかったが、先ほどのナツの攻撃で魔物が炎に怯んだ瞬間、リサーナは頭を左右に振ってなんとか口を塞いでいた触手からは逃れることに成功した。
「ナツ!ナツー!!」
 声が枯れるほどに叫ぶが、もはや少年に届いてはいない。
 ナツが触手の意図により投げ落とされた場所は、先程まで足場となっていた、化け物の本体の上だった。しかし今、弾力のあるゴムのようだった体表はてっぺんからドロドロと溶け出し、巨大な粘液の塊にその姿を変えていた。沼の水面から七、八メートルの高さにまでせり出し、絶えず赤い透明の液体を内側から湧き出させている。ナツはその中心めがけて、ドボンと勢いよく飛び込んだ。
「ごぼっ!?」
 ぬるりと生暖かい感触が全身を覆う。ナツがおそるおそる目を開くと、世界はなにもかもが真っ赤だった。
(ここは……化け物の身体の中か……?)
 色ガラス越しのようではあるものの、視界は思いのほかクリアだ。
 粘度の高い液体は水よりもだいぶかかる抵抗が大きく、沈むスピードはそうでもなかったが、そのかわり浮上するのもまたひと苦労だった。ナツは水面へ向かって必死で両手足をじたばたと動かしながら、壁沿いに上へ進んだ。ようやくして天井にぶちあたるも、穴のようなものはない。ナツを摂り込んですぐ閉じてしまったのだろうか。
(ふざけやがって……)
 さいわい体液自体はすぐに人間の皮膚を溶かしてしまうようなものではない。おそらくこのまま獲物を閉じ込めて、窒息死するのを待ってからゆっくりと吸収するつもりなのだろう。
「げっげげっ、ざまままみろ、げげ、っげ」
 グランド・イーターの笑い声はその体内にもはっきりと響き渡った。
 外では相変わらず触手がうねうねと動いているのが見える。ちょうどナツのいる位置と同じくらいの高さで固定されているリサーナが少年の名を必死で叫んでいた。
 ナツは透明な肉にしがみつくようにしてそちらを向き、何度か拳で壁を叩いてみるが、やはり打撃は吸収されてしまう。ただでさえ水中で思うように身体が動かないのだ。
『リサーナー!!』
 ごぼごぼと空気を吐き出しながら叫ぶ、粘性の液体の中ではすぐに音がかき消されてしまう。外へはとても届きそうになかった。
「む、むだ、むむだ無駄だ、こ、これこれは、おっ、お、おでの、ものだ、げっげ」
 少女の胴体に巻き付いていた数本が、スルスルとはずれて離れた。両手首に絡みついた触手はかかる重力を分散させるためにさらに腕のほうまで伸びてしっかり固定する。
 と、別の一本がリサーナの顔の目の前にその先端をもたげると、挨拶でもするようにその鼻先を軽くつついた。
「!」
 思わず横へ顔を逸らしたリサーナの頬を舐めるようにひと撫ですると、そのまま首筋から鎖骨へと移動する。
(……挑発に乗ったら思うつぼだわ)
 リサーナはぎゅっと目を閉じて身を強ばらせた。
「げ、っげ、げげっげ」
 スライムの化け物はぞっとするような声で笑い、新しいおもちゃを手に入れた小さな子供のような無邪気な仕草でリサーナを弄び始めた。エルフマンを繭状に包み込んだ時と違って、触手はまるで人間の手指同様に繊細に動き、くすぐるような微妙な力加減で少女の白い肌を這いまわった。ぬるぬるした赤透明の粘液がその軌跡を残してゆく。新たな一本が沼から伸びてきて、胸元のリボンをしゅるりと解いた。
「ひっ……!」
 着ていたカットソーは粘液を吸って肌に張り付いていたため、重力で脱げ落ちはしなかったが、赤い蛇の先がそれを面白がるように、じりじりとリボンの先を引っ張ってみせた。反応を楽しんでいるのだ。
「あ……、や……っ!」
 ところどころピンクに染まった薄いクリーム色のホルターネックがウエストのあたりまで引き下ろされた時、リサーナはたまらず声をあげた。
 それに呼応するように、触手は数を増やし少女を取り囲むように群がる。今度はウエストのベルトの隙間に入り込み、別の一本が器用にバックルを押さえて外した。ローライズのショートパンツはベルトの固定を失い、リサーナの細い腰にやっと引っかかっているだけの状態だ。ボタンはかかったままだったが、切りっぱなしの裾を少し引っ張っただけですとんと簡単に膝まで落ちた。
「いやぁっ、やめて!お願いやめて!」
 リサーナは身を捩って抵抗するが、手足の拘束が緩むことはない。
「おっ、おま、え、おでの、よめ、よっ、よめに、なる、なっ、なるん、だ、げっげ」
「キャアアアアアッ!!」
 触手たちはドロドロと粘液を滴らせて迫り、裸に剥かれた少女の身体に次々に絡みついた。

『てめえっ、リサーナに何してやがんだ!!』
 ナツはドーム状に戻ったグランド・イーターの体内で外の様子をいても立ってもいられない気持ちで見ていたが、それまでじっと表情を変えなかったリサーナが最初に発した小さな悲鳴で、カッと頭に血が昇った。
『クソッ、ここから出せ!出せええっ!!』
 目の前の壁に向かって火を吹き、燃える拳で連打し、体当たりを繰り返すが、やはりびくともしない。こんなことをしていても体力と魔力を無駄に消耗するだけだ。
(そうだ、リサーナが言ってた……心臓の代わりの動力源ってやつが、ひょっとしてこの中にあるんじゃ……)
 ナツは辺りに目を凝らした。身体が沼に沈んでいる部分から先はかなり暗くなっていたが、障害物らしきものは何もない。竜の視覚を持つ少年にとっては、底の方まで見渡すことができて好都合だ。
 と、真っ赤な視界の中に、やけに異質なオーラを放つ黒い立方形の物体が浮遊しているのが見えた。ナツがしがみついている場所からだいぶ潜って行かなければならないが、おそらくあれがその動力源にちがいない。
 底へ向かって一気に降下するために、ブースター代わりの炎を身体に纏わせる。
(待ってろよリサーナ、今すぐあいつをぶっ壊して、この化け物を止めてやる!)
 いざ壁を蹴ろうとしたところで、頭上からうわずった声が響いた。
「げっ、げげっ、おでの、よっよめ、おままえに、も、もっ、もっとよよく、見せみみせ見せて、やろう」
 振り返ると、外の触手たちがぐいっとリサーナの身体を本体の方へと引き寄せるところだった。
 ナツは慌てて体勢を戻して壁面を掴む。触手はそのちょうどその目の前に、磔の少女を見せつけるように掲げた。
『リサーナ!!』
「!?」
 顔を上げると、赤い透明の壁越しに必死の形相で何かを叫んでいる幼馴染みの少年と目が合って、リサーナは思わず息をのむ。
(いや……、ウソ……!やだ……やだ!!なんで!?)
 羞恥と焦燥で半ばパニック状態だった。
 あられもない姿だけではない、こんな得体のしれない化け物の手で、まだ誰にも見せたことのない格好をさせられ、全身粘液まみれで気味の悪い触手にいいように撫で回されて、しかもそれになすすべもなくただ泣き喚いている自分を、見られてしまったのだ。よりによって、ナツに。
 リサーナは愕然とした。
 彼女にとってナツは、初めて異性として意識した存在だった。幼い頃のたくさんの温かい思い出を共有している相手であり、そのせいかどこか家族のような空気を持っていて、そばにいるだけで不思議と心に安らぎを与えてくれる人だった。それでいて誰よりも強く、何かあれば必ず駆けつけて守ってくれる。大切な、かけがえのない存在。
 そして、そんな想いはあの頃から今まで、ずっと変わらないままだ。
――ナツは、なにを思っただろうか。こんな自分の姿を、汚い、と思っただろうか。
「いや……いや……!!」
 首を左右に振り、身体が千切れそうな勢いで身じろぎするが、手首に巻き付いている触手が容赦なくその腕を引き上げた。豊満な胸が、引き締まったウエストが、ギルドマークが刻まれた太腿が、少年の前に見世物のように晒される。赤い蛇たちは無駄に焦らすようにぬるぬると頭を動かし、優しく丁寧にリサーナの白い肌の上を這いまわった。まるで愛撫でもしているかのような動作に、リサーナは吐き気を催す。
「うぅっ……」
『おい……ふざけんなよ……!てめえは、なにがしてえんだ……!!』
 目にいっぱい涙をため、ガタガタと肩を震わせる少女の姿を、ナツは奥歯をぎりぎりと噛み締めながら睨みつけていた。そろそろ呼吸を止めていられるのも限界に近かったが、今はそんなことすら忘れるほどの焦りと苛立ち、そしてわけのわからない恐怖にとらわれていた。
「お、おで、おでの、こ、こども、う、う、うませる、この、お、おんな、に、おでの」
『な……!?』
 触手の一本が膨張したり縮まったりと蛭のように形を変え、わざとらしい仕草でリサーナの腰骨のあたりをゆっくり移動する。唯一身につけたままだった薄い布の境目をしばらく撫でるように動き回っていたが、ふと、なんの前触れもなく、その先端が足の付根から股布の内側へとぬるりと潜り込んだ。
「!!」
 リサーナは一瞬驚いたようにビクっと身体を跳ねさせ、薄いブルーの瞳は空中の一点で止まった。ナツの方を向いているが視界には入っていないことは明らかだ。
「あ……」
 表情を変えないまま、口をぽかんと開け、パクパクと動かす。
 ナツはその顔から視線を外すことができずにいた。全身の毛穴から汗が吹き出すのを感じる。
『……や、やめ……ろ……』
 絞りだすような声が自然と口から漏れた。
『やめてくれ、頼む、なあっ!』
「ヤメテクレ、やめ、やめて、やめてくれー、たののむ、たのむたのむたのむ」
 グランド・イーターが合成音のような耳障りな声で楽しげにナツの言葉を繰り返した。
 次の瞬間、リサーナの表情が一変した。
「あ、あ、あ……やああぁぁぁぁーーっ!!」
 両目は眼球がせり出すほどに大きく見開かれ、潰れた喉から発せられる声はひどく掠れて裏返っていた。激しく頭を振って髪を振り乱し、支柱となっている触手ごと揺らす勢いで手足をばたつかせる。
 半狂乱で絶叫する少女の身に、なにが起きているのかわからないほどナツも無知ではなかった。
『リサーナ!!リサーナ!!!』
 少年の声は届かない。だが、あちこちめちゃくちゃに泳いでいたその視線が、赤い壁に閉じ込められたナツの姿を捉えた時、リサーナは一瞬、これ以上ないほどに悲しそうな顔をした。
「いや……やめて……!お願い……ナツ、見ないで……こっちを、見ないでえぇっ!!」
『……!』
 ナツは少女の叫びに言葉をなくした。まるで、頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。そして同時に悟った。――リサーナが最も苦痛に感じているのは、化け物に蹂躙されていることではなく、その光景を他人である自分に見られているという事実なのだ、と。
「っあ……いやあーーッ!」
 ぎゅっと目を閉じる。だが、既にその脳裏には彼女の悲痛な表情が焼き付いていて、どうあっても今ここで起きていることを受け入れないわけにはいかなかった。
(なんだよ、これ……!なんなんだ……どうすりゃいいんだ……!)
 ごぼっ、と肺の中に残っていた空気が吐き出される。とうに限界は超えていた。
『……助けて、くれ……』
 ナツが無意識に手の中に握りしめていたのは、ルーシィの作ったお守りだった。その、不織布を縫い合わせただけの星の形のマスコットが、まるで特別な魔力でも持っているかのようにナツの心を落ち着かせた。
――まだ、できることはある。
 少年はぱっと目を開けた。手の中の物をポケットに戻すと、外を見ないように素早く背を向ける。膝を折り曲げて構えると、ナツは思い切り壁を蹴って一気に底へ向かって潜った。水圧と酸素不足で頭がくらくらする。視界もかすんでよく見えなくなっていた。
(待ってろ、リサーナ……!)
 ナツがようやく黒い箱にたどり着いた時には、もはや意識を保っているのがやっとの状態だったが、この化け物の体表とは違い、クリスタルのような硬質な素材で守られたその立方体になら、打撃の攻撃も十分通用するだろう。
 少年が残っていた魔力すべてを収束させ、炎を纏った拳を大きく振りかぶった時、グランド・イーターのザラザラした声が響き渡った。
「そ、それに、さ、さわさわる、な、それにに、なにかなになにかしたら、いまいますぐ、おま、おまえ、ころす、殺す、ぞ」
 だが、それが脅しであろうがそうでなかろうが、ナツに今できることはもう他になかった。
『はっ……、そりゃ、賭けにすらならねえな……!』
「この、おん、おんなが、どっどうな、なっても」
 言葉を最後まで聞かず、ナツは合わせた両手を振り下ろした。
『終わりだ』
 ボグン、と黒い箱が陥没して破片が飛び散る感触が伝わってくるより先に、ナツは意識を失った。


たま
木綿さんこんばんわ。
一読者としては、毎回コメントを残すべきなのですが、

私、小説読んだ後とか、荒ぶって
時々、文章が変になっちゃって...

後で読み返すと
「うわああっ私の馬鹿アッ!」
みたいな感じになっちゃうのです。

が、Twitterで9話更新のお知らせを見て、「今だ」と、駆けつけました。
変なタイミングの初コメですが、私にとっては恥を忍んでの、大きな第一歩です!!
すいませんでした本題に移ります。

...私などが感想を述べるというのもおこがましいのですが、
一言で言っちゃうと、
辛いです。

多分、リサーナ可哀想。と思ったのは生まれて初めてかもしれない。
「今日はもしかしたら、爆発するかもだから、気をつけなきゃ。」

と、地雷には警戒していたつもりなのですが、
別の意味で恐ろしくて恐ろしくて...

とりあえずネガティブな感情が充満しています。これは小説に不満があるのでは無く、
表現の描写が凄くて、
想像力の乏しい私にでさえ、
恐ろしい情景を想像させてしまう
と、ゆー事です。
(ほらね、もう何を言ってるんだか分からない(´・_・`)ごめんなさい分かりにくいコメントで)

とにかく、何が言いたいかって、
...
絵も上手くて、小説も上手いなんてズルい!
ソーゆー事です!

すいません、今回はあまりにも居た堪れない気持ちで、
ろくなコメントも残せそうにないので
また、次の10話にでも、またコメントしようかと思います。

次の更新も楽しみにしています。
2013-03-26 21:43:41
木綿
たまさん、いらっしゃいませ。
コメントありがとうございます。

>一読者としては、毎回コメントを残すべきなのですが

ということは、私の小説をいつもご覧いただいているのですね。ありがたい限りです。
荒ぶっていようが、文章が変だろうが、読了後すぐの感想をテンションのままに
書き殴っていただけると私は非常に嬉しいです。うおおおおおとかあばばばばばばとか
そんなコメントでこの欄が埋め尽くされることを私は常々願っていません。
せっかく第一歩を踏み出してくださったのですから、これからはあまり深く考えずに
じゃんじゃん書き込んでくださいね。

>多分、リサーナ可哀想。と思ったのは生まれて初めてかもしれない。

この話を思いついたのは、去年の夏のはじめ頃ですが、このシーンと展開はその時から
既に私の頭の中に鮮明に出来上がっていました。
映像として妄想するぶんには、ここまで壮絶な感じではなかったのですが、やっぱり
文章にするとなると描写が細かくなってしまうせいか、なかなかエグく仕上がりました。
これでもエログロ感をだいぶ削って緩和したんですけどね。

>「今日はもしかしたら、爆発するかもだから、気をつけなきゃ。」

ナツリサ的な意味でのごく小さな地雷は多少盛り込んだ気もしますが、それどころじゃ
ないですもんね。リサーナに感情移入できるかどうかで見方が変わるでしょうけれども。

>とりあえずネガティブな感情が充満しています。これは小説に不満があるのでは無く、
>表現の描写が凄くて、想像力の乏しい私にでさえ、恐ろしい情景を想像させてしまう
>と、ゆー事です。

不愉快な気分にさせてしまって申し訳ありません。ですが、これはやはり物書きにとって
最大級の賛辞ですので、私は素直にヒャッホウと喜んでおります。
文章を書くときは、読み手の想像する映像を私の中にある情景にどこまで近づけることが
できるか、というのを常に意識して書いているつもりなのですが、そこに多少の食い違いが
でてくることは仕方ないし、当然だとも思っています。
ですが、たかが文字というツールを使って表現したことで、誰かの感情にまで影響を
あたえることができたのならこれ以上嬉しいことはありません。
つまり、今回の話で言えば、読んだ方が嫌〜な気持ちになればなるほど、私は喜びます。
複雑ですね。

>絵も上手くて、小説も上手いなんてズルい!

うへへありがとうございます。
でも、実際は両方とも中途半端な遊びの域だからこそできるだけであって、本当にただの
真似事なんですよね。それでも楽しんで見てくださる方がいるのなら、私も最大に楽しんで
創作を続けようという気になります。なのでもっと褒めるといいと思います。

次回は、純粋な地雷を設置する予定です。
感想ありがとうございました。
2013-03-27 12:40:51
いちご
あばばばばば。
モバFTに夢中になっていたら…
9話がUPされておった…(´・_・`)ショボン。

あぁ…ついに、きましたね。
触手さん…。
やっぱり、君は触手だったのだね…。

もう、だから言ったじゃないか、リサーナさんよう。
危ないよ?って。

てゆうか、ナツくん。
さっさと、魔水晶ぶっ壊してればこんな事には…。

まぁ、ナツもショックだったんですよね。うんうん(゚д゚)(。_。)

自分が不甲斐ないが為にスライムの中に捕らわれて、手も足も出せない所で、
大切な幼馴染が訳のわからんスライムに犯された場面を見たんじゃ、そらトラウマにもなりますよね…。

なるほどな。これが原因で自己嫌悪に鬱々したナツさん…。

だがしかし。よくそんな状態でルーシィを押し倒したもんだ。

って思って、始めの方に戻って読み返してきました。

あぁ…そうだった。
ナツは最中に「リサーナ」って呟いたんでしたね。コンニャロウ。コンチクショウ。バカヤロウ。

核心に迫ってきたところで、最初から読み返すと「あぁ…そっか。ここはこうなのか」って新たな発見がありますね。

ナツの中で触手と自分がダブったのか…
ルーシィとこの時のリサーナがダブったのか…。

根底は「目の前で辱めを受けているリサーナを助ける事ができなかった」事へ責任を感じている事と、
事が事なだけに誰にも相談できなくて、自らの中で消化できずにいるってとこなんでしょうか?

リサーナは「エルフ兄ちゃんにも…ミラ姉にも…誰にも言わないで。」とか言いそうだし。

理由がわからなだけに、そのまま、ナツはルーシィの部屋に来なくなった…ってなると、ルーシィ的にはやり逃げされた感満載ですし…。

なんだか…誰も報われないような気がしてきた((((;゚Д゚))))

どうしよう。どうしよう。

でも、木綿しゃんはハッピーエンドになるって言ってた。
言ってたもん!!

言ってたもぉぉんだぁ!!!!

はぁはぁ。

地雷、ついに来るのか…。
ドキドキドキドキドキ(O.O;) (o。O;)

では。さらばじゃ!どろん!! |ω・) |・) |) ※パッ
2013-03-27 14:38:07
木綿
いちごさん、いらっしゃいませ。

ついに来ました。触手さん。
予想通りの展開で申し訳ないのですが、典型的な触手系モンスターの本領を
大いに発揮していただきました。あまりにもベタだったので「あーはいはい」という
感じの反応が来ることも覚悟の上でしたが、ここまで展開を先読みされてしまうと
ハードルがぐんぐん上がっていくようでなかなかつらいものがありますね。

予想の上を行くような展開になると良いのですが、この先あまり大ドンデン返しは
起きないと思います。おっしゃるように、ある意味では誰も報われないのかも……。

いや、ハッピーエンドにはするつもりですけど!つもりですけども!
みんなズタボロになってる可能性は否めませんよね。ぶっちゃけ、この先はまだ
大筋しか決めていないのでどうなるかはわかりません(笑)

>てゆうか、ナツくん。
>さっさと、魔水晶ぶっ壊してればこんな事には…。

そうなんです。
あそこまで潜る準備しておきながら『もっとよく見せてやる』って言われて
慌てて見に戻っちゃうとか、どんだけリサーナの裸見たかったんだよって思われても
仕方ないですよね。きっとそんなことはないはず!ていうか違います!違います!!

>だがしかし。よくそんな状態でルーシィを押し倒したもんだ。

これに関しては、物語の中で解説ができるかどうかわからないので、ちょっとここで
さわりだけ私の見解を述べておこうと思います。
リサーナが化け物にされたことで受けたショックを、ナツはそこまで具体的には
理解していないと思います。未経験なことに対してそこまで想像力が働かないから
というのが大きな理由ですが、もしこれがルーシィであったなら、ナツはおそらく
単に自分のエゴだけで怒りを爆発させていたはずです。つまり、極端な言い方を
するなら、この時ナツがリサーナに抱いた感情はあくまで『同情・同調』の域を出ず
ルーシィへ求める『愛情』とは本質が異なるため気づくこともないわけです。
ルーシィを抱くこと自体がリサーナの件と結びつくとも思っておらず、実際に行為に
及んでからも、その時のことがフラッシュバックすることが何故なのかわからずに
震えて動けなくなってしまった、ということではないかと。

……なんか全然ちゃんと伝えられてる気がしないですが、なんとなくふわっとでも
意識して読んでいただけたら幸いです。

次回でいったん皆さんに爆発していただくことにはなるかと思いますが、たぶん
そこまで言うほどではないです。私が麻痺してきただけかもしれませんが。

感想ありがとうございました!
2013-03-27 21:18:40
Ellgand
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2023-08-26 18:27:08
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配送の予定では注文から中一日の予定だったのですが天候も幸い落ち着いていたおかげで、翌日の夜にはゆうパック届きました。梱包も商品だけでなくその周り、さらに隙間にも緩衝材を丁寧に入れてあり商品が保護されていました。
またこのお店で買い物をしたいです。
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