スイート・ペイン・イン・チェインズ
第六話 沼に棲むもの


「足元、気をつけろよ。木の根が露出してるから引っ掛けるぞ」
 エルフマンは慎重に足場を選びながら先頭を進んだ。
「オレの背中に乗るか、リサーナ」
「ううん、大丈夫。ありがと、エルフ兄ちゃん」
 リサーナはそう答えるとアニマルソウルでカモシカの姿になった。倒れた木々や剥き出しの岩の間をひょいひょいと華麗に飛び越えながら兄に続く。
「ほおー、便利なもんだなあ」
 感心するナツにリサーナが答えた。
「ふふっ、私だってこれでも妖精の尻尾の魔導士よ。変身できる動物の種類だって昔とは桁違い……きゃっ」
 銀毛のカモシカは、得意げに話しながら前方の倒木の枝に飛び移ろうとしてうっかり後ろ足を踏み外し、慌てて幹を掻いて体勢を立て直した。それを見てカラカラと笑うナツに、リサーナが頬をふくらませ、なによ、と噛み付く。
「こらこら、ふざけてねえで進むぞ。もう沼はすぐそこだ」
 と、そこでナツが不意に立ち止まった。
「ちょっと待ってくれ、エルフマン」
「……どうしたの、ナツ」
 ナツの真剣な声に、兄妹は足を止めて後ろを振り返った。
「何か、聞こえる」
 エルフマンは意識を集中して耳を澄ましてみる。
……コポッ……コポポッ……コポッ……
 確かに、妙な音がする。しかもそれは三人がいる場所のすぐ近くから聞こえて来ていた。
「なんだ……水が湧き出てくるみてえな……こりゃ一体」
 何の音だ、と言う前にナツが「しっ」と人差し指を立てたため、エルフマンは黙った。
 右手には破壊を免れた森が広がっていたが、ナツはその奥の方へじっと目を凝らしている。
「伏せろっ」
 ふたりに向かって叫んだと同時に、ひゅっ、と前方から飛んできた何かがナツの頬をかすめた。その物体が行き着く先を確認する前に、後ろから追い打ちをかけるように新たな攻撃が放たれる。ナツは咄嗟に跳躍しかろうじてそれを躱すと、ようやく視界に捉えたものに思わず息を飲んだ。
「なんだ……こいつは……」

 リサーナは人間の姿に戻り、倒された大木の影に身を屈めていた。ナツの様子から察するに、敵はそこそこの魔力の持ち主にちがいない。エルフマンが持っている松明の明かりが届かない以上、今ヘタに動くべきではないだろう。
(例の、石の鱗の魔物かしら……)
 その時、足元の土が波打つように揺らいだのを感じた。
「えっ……」
 ゴポッ、と音がして、緑色の細長い物体が土の中から現れた。半透明で自ら発光し、闇の中ではっきりとその形状を浮かび上がらせている。うねうねと蠢きながら自在に伸縮し、頭上へ先端をもたげた。
 唖然としてその動きに見入っていると、背にしていた木の裏側から途方も無い魔力の気配を感じて、リサーナは思わず立ち上がった。
「ぐああぁーっ」
 エルフマンの叫び声にぞくりと背筋が凍る。
 松明の火はどうやら地面に落ちて消えていたが、あたりはぼんやりと黄緑色の光に包まれていた。その光源がたった今見た発光する蛇のような物体のせいだということはすぐに分かった。だが、驚くべきはその数だった。二十、三十どころではない。それらは地面から生えるように次々に顔を出し、エルフマンの手足に絡みついてその巨体を持ち上げているのだ。
「エルフ兄ちゃんっ」
 リサーナの叫びは兄の耳に届いたが、喉元を締め付けられているせいで「こっちへ来るな」という言葉は声にならない。苦しそうな表情で口をパクパクと動かしなんとか妹にその意思を伝えようとするが、リサーナの目に、それは逆に助けを求めているように映った。
「待ってて、こんなやつ私の魔法で……」
 アニマルソウルを発動しようとしたその時、さらにあちこちから伸びてきた数百本の光る触手状の物体が、あっというまにエルフマンの全身を繭のように覆い尽くした。
「……!」
 よく見ると、半透明の身体の内側はドクドクと脈動している。巨大な繭は地中から伸びた無数のチューブに繋がれ、まるで中に閉じ込めた獲物から養分を吸い取っているかのようだ。
「このヤロー、エルフマンを離せ!」
 後方にいたナツは仲間の危機にいち早く気づき急いで駆け寄ろうとしたが、ぬかるんだ地面に足を取られ思うように前に進めずにいた。黄緑色の物体は、水が湧くようにボコボコと溶け出した地面の土から生まれては見る間に増えて行く手を阻む。
「……っ、きりがねえっ」
 届く範囲に現れた触手を一本ずつ掴んでは力任せに引きちぎりながら、ナツは既に焦りを感じ始めていた。
 全体が筋肉で出来ているかのように力強く動きまわる上、丈夫なゴムのような皮膚は打撃のダメージを全く受け付けない。しかも熱を感じないのか、火竜の炎をものともしないのだ。
(相性が最悪なのは確かだが……こいつ、ただの雑魚じゃねえ)
 今はまず、とにかくエルフマンを助けなければ。あんなにびっしりと隙間なく巻き付かれては、おそらくまとも息もできていないだろう。
(一気に飛んで、倒木を足場にしながら前へ進めば……)
 そう考えて身構える。すると、たった今まで乾いていた地面はまたしてもドロドロと溶解を始めた。思うように足を踏ん張れないだけでなく、ここでうっかり転んだりでもすれば一瞬でこの生き物たちの餌食だ。
(くそっ……どうする……どうすりゃいい……)
 首筋を伝う汗が妙に冷たく感じる。
 その時、エルフマンを覆っていたチューブの隙間からカッと強い光が漏れ出した。半透明の繭の内側にくっきりと人影を映し出す。
「ビーストソウル・イエティ!」
 魔法陣が展開すると同時に、人間の手足がボコッと繭を破って飛び出した。やがて現れたエルフマンの全身が、筋肉の軋む音と共にさらにふたまわりほども大きく変化し、続いてその体表がみるみる白い毛で覆われていく。
 まだ首や胴に巻き付いていた数十本を巨大な手で無造作に掴むと、あっさりと引きちぎった。
「エルフ兄ちゃん!」
 リサーナは嬉しそうに声を上げる。
 雪男の姿となったエルフマンはそれに応えるようにいつもの優しい瞳をリサーナへ向けると、大きく空へ咆哮してみせた。
「うおおーっ、すげえぞエルフマン!」
 ナツも子供のようにわくわくした表情で雪男を見上げる。
 エルフマンはそのまま肺いっぱいに空気を吸い込むと、あたり一帯、まるで深海のイソギンチャクのようにびっしりと蠢く蛍光色の草原に向かって、ゴオオッと白い息を吐きだした。
 そのブレスはまさに吹雪そのものだった。ぬかるんだ大地ごと、一瞬にして森は雪に覆われていく。触手の化け物たちはピタリと動きを止めて凍りついた。それでもしばらくの間、チューブ状の半透明な皮膚の内側でドクンドクンと脈打つように発光していたが、やがてその緑色の光がだんだんと弱まり、しまいには完全に色を失った。
 エルフマンは全ての触手が灰色に変わるまで凍てつく息を吐き続けた。

「やったね、エルフ兄ちゃん。それ、この間シャガ山で接収したイエティでしょ。こんな技が使えるなんて知らなかった」
「……っておい、オレにもお構いなしでブレスすんなよ、エルフマン」
 雪の中からしゅうしゅうと蒸気を上げながらポコッと顔を出し、ナツは大声で訴えた。彼の炎にかかれば周囲の雪など一瞬で溶けて消えてしまうはずだが、そうしないのはエルフマンが自分を巻き添えにしたことへの当てつけのつもりだろう。
 元の姿に戻ったエルフマンは、さすがにハアハアと肩で息をしながらも、そんなナツを見て笑う。
「ははっ、すまねえナツ。暗くてよく見えなかったんだ」
「嘘つけ、リサーナにはあたらねえようにしてたじゃねーか」
「ナツが鈍臭いから避け損ねただけでしょ、ねえ、エルフ兄ちゃん」
 リサーナはウサギの姿でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、さっきの仕返しだとばかりにクスクスと笑った。
 ささやかな月明かりが一面の雪に反射することで、あたりは先程に比べてかなり明るく感じられる。
 外傷はほとんどないものの、エルフマンの魔力の消耗は相当なものだった。
「少しでも体力を回復させたほうがいいわ。魚の化け物は今の敵なんて比較にならないほどの強いはずだもん」
 ナツは森の中から乾いた枝をひと抱え集めてくると、雪をどけて指先で火をつけた。
「それにしても一体なんなんだ、この妙な生き物は」
「……今朝、オレが馬車の中から見たやつに間違いねえと思うが……」
 エルフマンが神妙な面持ちで答える。
「気になるのは、沼の件だ」
「沼?」
 リサーナが聞き返す。
「ああ、村長の話じゃ、魚の化け物が現れた頃に森の中に突然沼が湧いたってことだった。実際、そいつがその沼に棲みついているのは確かなようだが……」
「……だから、きっとそれは、そもそも沼を作ったのがその魔物自身で……」
 その話はさっきしたじゃない、と言いたげにリサーナが口を挟んだ。
 それを遮るように、ナツが近くで凍りついていた触手の一本をパキンと折った。
「なあ、この蛇みてえな奴ら、この硬い乾いた土を一瞬でドロドロに溶かしてそこから出て来たよな」
「え……」
 リサーナがそこでハッとして隣の兄の顔を見上げると、エルフマンは黙ってゆっくり頷いた。
「……こいつらの能力が、沼の発生と無関係だと思うか」
 そう言って、ナツはカチコチに凍った蛇のような物体にぼっと火を放った。周りの氷が溶けるとそれはみるみる縮んで行き、ナツの手の中で踊るように蠢いていたが、やがて燃えかすも残さずにきれいに消えてなくなった。
「で、でも、関係があったとしたらどうなの。たとえこの蛇たちが沼を作ったんだとしても、結果は変わらないじゃない」
「そうだな。残念ながらオレにはこの気味の悪いニョロニョロを接収することはできねえし、まずは石の鱗を持つ魚の魔物をなんとかするべきだろう。……でもな、いくら依頼じゃないからと言って、こいつらを放置しておくことはできねえだろ」
 そこでリサーナはようやく合点がいった。
「……つまり、この蛇みたいな生き物はいまやっつけたので全部じゃないってこと?沼には、魚の魔物だけじゃなくて、まだこいつらがたくさん待ち構えてて……」
「その通りだが、重要なのはそこじゃねえ」
 ナツが立ち上がって言った。
「こいつらはもともと1体の化け物だ。トカゲの尻尾と同じで、どれだけ切ろうが凍らせようが、本体を叩かねえ限りいくらでも再生する」
「……」
「……エルフマンも同じ事を考えてんだろうけど、オレの予想通りなら、森を破壊したのは魚の魔物じゃねえ。それと……村人たちを行方不明にしたのも」
「ああ……おそらく、この触手の、本体だろう」


いちご
うむ。
アニマルソウルとビーストソウルは便利だな…。
凍てつく息。ヒャド系ですな。
エルフ兄ちゃんにまさかの氷属性。
して、脱ぎグセはいかに…。

最近思うのです。
グレイの脱ぎグセはもう、代名詞ですが…
FTギルドの男連中は基本的に脱ぐよね…って。
大体が、上半身着てないorチョッキ、上着を素肌にonだったりで…
引き締まった腹筋やらを、惜しげも無くさらしてるよね?って思うのです。
まぁ、もっと見せろと鼻息が荒く心の中で叫んでおりますが。

何が言いたいかとゆうとですね、
リサーナとエルフマンのシスブラコンは可愛いな…と。

ニョロニョロ…。こいつか…。こいつなんだな…。

ふぅ。
地雷なーーーし!!
しかし、ここで気を抜くな!
これからまた、地雷原があるやもしれぬ…。
イエッサー(`Д´)ゞ
2013-01-24 23:13:10
木綿
いちごさん

安定の即コメありがとうございます。
いつも一番乗りで読んでいただき嬉しい限りです。

テイクオーバー、便利ですよね。
一旦接収しちゃえば、ある意味どんな属性の魔法も自在だと思うのですが
エルフマンて公式だとイマイチ活躍の場がないので、今回は大幅に捏造しました。
もしかしたら、接収した魔物の物理的な部分しか、身体に顕現できないとか
そういう条件があったりするのでしょうか。テイクオーバーは前作のRAVEから
引き継いで登場する魔法だそうなので、もしかして私のテイクオーバーの解釈が
間違っている可能性がありますね。
あと、ビースト系の魔物はすごく幅が広いですし、正直アニマルソウルともだいぶ
被ってくる気がするのですが、その辺のヒロ君の大味な感じの設定が私は好きです。
こまけぇことはいいんだよ。

確かにFTに登場する男性キャラクターは半裸が多いですよね。
というか女子もですね。
フィオーレ王国は背景などを見る限り、どこもだいたいヨーロッパっぽい街並み
ではありますが、実はだいぶ南国なのでしょう。ジュビアは暑くないのでしょうか。
ですが、たとえフィオーレがどんなに南方に位置しており、暑い気候だったとしても
私、スティング君のあの衣装だけは、何度見ても罰ゲームとしか思えません。

リサーナとエルフマンの兄妹愛、いいですよね。
ミラとリサーナは公式でもよくカラミがありますが、エルフマンていちいち蚊帳の外
という印象が強いので、今回は思い切り絡ませたいと思っておりました。

現在まさしく書いて出し状態で、お話の前後をきちんと組み立てたりしていないため
つい勢いで正体を明かしてしまいましたが、ニョロニョロをこの段階で出したのは
早計だったのではないかと後悔し始めております。あとあと辻褄合わせが……。

地雷、今回はなかったですか。
本来はルーシィが居るべき立ち位置にリサーナがいて、しかも違和感なくいい感じで
笑い合ったりしてる様子をプチ地雷と感じる方もいらっしゃるかも、と思ったりも
しましたが、さすがにこの程度では痛くも痒くもないですよね。
次回こそはドロドロに突入する予定ですので、頑張って書きたいと思います。
思ったのですが、私、ドロドロの展開を書きたくないがために、今回、特に必要という
わけではなかったエルフマンの活躍戦闘シーンとか入れてしまったのではないかと
自分を疑い始めています。

だ……大丈夫、ちゃんと書きますから!
感想ありがとうございました。
2013-01-25 14:07:51
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