「わっ」
突然立ち止まりった相棒の後頭部にあやうくぶつかりそうになり、ハッピーは慌てて飛行の軌道をそらした。
「どうしたの、ナツ」
少し非難めいた口調でたずねた。だが息を潜めて空中を睨みつけ、何かに意識を集中しているらしいナツにその声は届いていないようだ。
ハッピーはそのままふわりとナツの視界へ躍り出て、両手を振り回してみせた。
「ナツってば」
「んあ、なんだハッピー、なんか言ったか」
ようやく返事があったものの、その表情はどこか上の空だ。
「……ううん、べつに。……それより早く帰ろ、オイラお腹減っちゃったよ」
「ああ……うん、……あのな、ハッピー」
ナツはどこか気まずそうに、つと目を逸らした。
「ちょっと、用事ができちまった」
「えっ」
「悪りぃけど、これ持って先にギルドに戻っててくんねえか。メシはミラになにか作ってもらってくれ」
そう言ってナツはさっき依頼人からサインをもらった書類を懐から取り出すと、四つに畳んでハッピーの背中の風呂敷に押し込んだ。
丸い目を怪訝そうに少しだけ細めて、ハッピーは明らかに様子のおかしい相棒の顔をしげしげと眺めた。
はやる気持ちを見透かされているようで、ナツは不自然な笑顔を湛えながらもハッピーの方を向くことができない。
「……わかったよ。ナツは帰りが遅くなるかもしれないって、オイラちゃんと伝えておくから安心して」
「そっか、ありがとな、ハッピー」
言うが早いか、ナツは踵を返して走り出していた。
みるみる小さくなる相棒の背中を見ながら青い毛の仔猫はため息をつく。
――またこれか。
出先で突然"用事ができた"ナツが、ハッピーを先に帰すことはこれまでも何度かあった。
依頼された仕事を終えて帰路に着く段になると、ナツはそわそわと落ち着かなくなり、列車の駅や街の出口で、毎回同じ台詞を口にした。仕事の内容や街の規模に関係なく、時には何もない山道や森の中でこれを言い出すこともあったが、ハッピーがついて行くことだけは決して許さなかった。
"用事"を済ませてナツが家へ戻ってくるのは決まって深夜を過ぎた。
その姿はいつも満身創痍で、だが暗く沈んだ様子とは裏腹に、ギラギラした眼光にはやり場のない怒りや苛立ちが表れていた。それは目を覚ましたハッピーが声をかけるのも憚られるほど、痛々しく、真剣に、まっすぐ前を見据えているのだった。
ハッピーには、ナツの言うその"用事"について心当たりがないわけではなかったが、彼が自分から話そうという気になるまでは、こちらから色々詮索すべきではないと考えていた。
心配なのは確かだが、もとより止めたところで聞く相手ではない。
「オイラも甘いよね」
駅へ向かいながら独りごちた。とはいえ、心のどこかで何かを期待している自分がいることもまた事実だった。
◆
マグノリアから列車でニ時間ほどの距離にある小さな町フェンネル。
週末に開かれる運河を利用した小規模な水上マーケットと、町の西側にひろがる丘から望む夕日の絶景スポットで知られるが、その他にはこれといった特徴はない。中心街はまさに下町といった風情だ。小さなメインストリートに並ぶ商店は、どれもこぢんまりとしていながらそれぞれに活気あふれている。町中を流れる運河は今でも物資の運搬に利用されており、小さなゴンドラがゆったりと水路を行き交う。
陽気に歌いながら船を漕いでいた船頭が、足を止めて運河を眺める見慣れない少年に手を振った。気づいたナツも手を上げ笑顔を返す。ここにはまだ道行く人同士が気軽に挨拶を交わしあうような、人情味に満ちたあたたかさがあった。
マグノリアはいまや大都市と呼ぶにふさわしい。名実ともにフィオーレ最強ギルドとなった"妖精の尻尾"の本拠地としてその名を知らしめたことで、ここ一、二年で急激な発展を遂げていた。世界中から街を訪れる観光客の数は激増し、ギルドへの入門を希望する魔導士は後を絶たない。
商店街は一新し、ほとんどの店舗がしっかりした石造りの建物とガラス張りのショーウィンドウを構えるようになっていた。高い天井のアーケードの内側は、色とりどりの光の魔水晶が設置され、天候に関係なく常に明るく快適に保たれている。
列車の駅も大きく造り変えられた。併設された円筒型の建物は地上8階建ての巨大ショッピングモールだ。中央が吹き抜けになっていて、真ん中に設置された魔導エレベーターをぐるりと取り囲むように回遊式の通路が作られている。ありとあらゆる商品が売られており、そこへ行けばまず手に入らないものはなかった。
街の発展は喜ばしいことだ。色々と便利にもなったし、なにより、妖精の尻尾の貢献によるものだと思うと誇らしくもなる。だが、たとえば、街が変形して一本道が現れる、ギルダーツ避けとして作られたはずのあの仕掛けが、今では観光客向けのデモンストレーションと称して一日二度披露され、稼働の知らせに鳴り響く鐘の音を聞いたりすると、ナツはなんとなくやるせない気分になった。ギルドが街のどこへ引っ越そうが、ナツにとってあの一本道はギルダーツが妖精の尻尾へ向かって歩いてくるためだけの道でなければならなかった。あの鐘は『ギルダーツが戻った』知らせでなければならなかった。当時はその音を聞けば条件反射のように心が高揚したはずなのに。
たかが二年間で、大切に思っていた色々なものが、失われたり、別のものへと変貌していったりするのを、ナツは複雑な気持ちでただ見守るしかなかった。胸に穴が開いたようなこの空虚感は、めまぐるしい街の変化によってもたらされるものだと自分に言い聞かせながら。
ぼんやりと運河を眺めながら、ナツはかつてのマグノリアの街並みを思い出していた。
ギルドからの帰り、月明かりに照らされてキラキラ光る水面を右手に見ながら毎晩のように歩いた石畳のあの道は、魔導四輪車専用の道路建設のため水路が埋め立てられ、いまでは当時の面影もない。
――この町は、あいつによく合っている。
初めてフェンネルを訪れたのはもう4年も前になる。
仕事で日帰りの滞在だったが、町の様子は当時からほとんど変わっていない。
『すてき、こんなにきれいな夕日、あたし初めて見た』
耳に残るその声があまりにも鮮明に頭に響いてきて、ナツは思わず締め付けられるような痛みに胸を押さえた。
思い出すまいとしても、記憶の片隅に追いやっていた映像が勝手になだれ込んでくる。
『いつまでここでじっとしてる気だよ。もう日も沈みきったろ、暗くなる前に帰ろうぜ』
『あい、オイラお腹ぺこぺこ』
『まったく、あんたたちには情緒ってもんがないわけ』
『チョウチョくらいさすがにオレでも知ってるぞ、バカにすんなよ』
『オイラ、猫ですから』
『……はぁ、もうしょうがないなあ。……晩ご飯、なに食べたい?』
『肉』
『魚』
『はいはい』
呆れたように笑う顔や、柔らかい声、甘い優しい香りまでもがよみがえってくるようだ。
……いや、そうではない。
その香りは脳に刻まれた情報などではなく、明らかにいま、その場に存在するものとしてナツの鼻孔に届いている。
(まちがいねえ、やっぱりさっき聞こえた声は……)
キョロキョロと辺りを見回しながら、少し人通りの多くなってきた道を早足で歩く。
橋の手前で、ひときわ強く香りを感じた。
夢中でそれをたどった先の対岸へ目をやると、はたしてそこには眩しい金色の髪をなびかせながら歩く少女の姿があった。
「ルー……シィ」
生成りの膝丈のコットンワンピースに、足元は茶色の革紐で編まれたヒールのないサンダルという、ナツの知るその人とはまるで別人のような清楚な出で立ちだが、何度も記憶を反芻しては追い求め続けていたこの香りは、紛れもなく本人のものだ。
それを確信した途端、思うように呼吸ができなくなりナツは焦った。名前を呼ぼうにも喉が焼け付いたように声が出ないし、駆け寄ろうにも杭を打ち込まれたように足が動かない。
「クソッ、なんでだよ、なんで、こんなに……」
動揺しているのだろう。
ナツは歯を食いしばって、ガクガクと震える足を何とか一歩前に踏み出させようと拳で叩いた。早くしないと見失ってしまうかもしれない。
と、橋の方へ向かって対岸の道を歩いていた少女がふとこちらに顔を向けた。
「あ……」
彼女を凝視していたナツとかちりと目が合った。
その鳶色の瞳をはっきりとらえて、ナツの心臓はさらに派手に鼓動を打ち鳴らした。こめかみがズキズキと痛む。
ぎょっと驚いた表情がみるみる曇ったかと思うと、少女はくるりと身体の向きを反転させ、そのまま大股で来た道を歩き出した。
「あっ、ちょ……」
急にナツの身体が弾かれたように動いた。まだ膝が笑って足がもつれそうになるが構ってなどいられない。
少女は後ろを振り返り、そんなナツの姿をとらえた。追いつかれまいと走りだそうとしたその瞬間、ちょうど先の路地から、木箱をいくつも山積みにした荷車が顔を出した。
「あぶねえっ」
ナツの叫びは彼女の耳に届いたが、障害物は既に目の前へ迫っており、もはやどうすることもできない。思い切り地を蹴りだした勢いのまま、ルーシィはなすすべもなく荷台へ突っ込み、バランスを崩してぐらりと傾いた重い木箱がいくつもその頭の上へ――。
ルーシィは覚悟を決め、ぎゅっと身を硬くして構えた。
と、熱風がすぐ横をすり抜けたように感じた。ドゴォンと大きな爆発音が地鳴りとともに響き、誰かの悲鳴がかき消された。建物の窓ガラスがビリビリと震える。砂塵をまとった風が下から煽るように薄いワンピースの裾を舞い上がらせるが、ルーシィにスカートを押さえる余裕はない。
風がおさまっておそるおそる顔を上げると、その場にいた人々は凍りついたような表情で硬直し、静まり返っていた。
「……なに、これ……」
辺りはもうもうと煙がたちこめ真っ白だ。
コロコロと転がってきたオレンジが、ルーシィの足にぶつかって止まった。それを屈んで拾い上げ、自分が無傷でいることにようやく気づく。
「あれ……」
十メートルほど前方に黒焦げになった荷車が横倒しになっているのが見えた。積まれていた木箱のいくつかが地面に叩きつけられた衝撃で壊れ、ぶちまけられた大量のバレン産オレンジが道の上を鮮やかに彩っている。そのすぐそばでは、荷車を押していたと思われる商人の男が地面にへたり込んで、仕入れたばかりの新鮮な果物が燻製になっていくところを呆然と見つめていた。
ルーシィはゾッとした。
この光景には、いやというほど覚えがある。
――逃げなければ。ここから、早く。
そろりそろりと後退し、集まってきた野次馬の人だかりに紛れたところで、がしっと手首をつかまれた。
「きゃ……」
その小さな驚きの声は背後から口をふさがれたことで止められ、そのまま信じられないような力で細い路地に引っ張りこまれた。無駄のない身のこなしで的確に動きを封じられ、抵抗もままならない。
一難去ってまた一難、ついそんな言葉が頭をよぎる。
だが、ルーシィをここへ引きずり込んだ主は、酒樽の影に彼女を座らせると素早くその身を離した。
そこは表通りに並ぶ店のいわゆる裏口に面した道のようだが、うず高く積まれた木箱や壊れた椅子などが捨て置かれ、完全に物置と化していた。当然どの店もその勝手口を有効に使っている形跡はない。奥は行き止まりになっていて薄暗く、ひと気がないどころか野良猫すら通りそうになかった。
「もう、めちゃくちゃ過ぎよ」
少し距離をとったところで壁に背をつけ腕組みをして立つ少年に、ルーシィは観念したように声をかけた。
「……なんのつもり」
「助けてもらっといて、そんな言い草はねえだろ」
俯き気味に地面を見たまま少年は答えた。
なんとなく"らしくない"その様子にルーシィはちょっと戸惑う。
「……さっきは、危ないところをありがとう」
台本を読むような言い方はさておき、ルーシィがとりあえずは自分を無視しなかったことにナツは安心した。
「どう、いたしまして」
だが、次の言葉が出てこない。大丈夫か、とか、相変わらず鈍臭えな、とか、当り障りのないセリフですら、いま言うべきなのかどうかわからなかった。
黙り込んでいるナツをルーシィはしばらくのあいだ不思議そうに見ていたが、気を取り直したようにパンパンとスカートのほこりを払いながら立ち上がると、にこりと微笑んで言った。
「……ひさしぶりね、ナツ」
ドキドキドキドキドキ…。
あぁ、オレンジたべたいな…。
感想ありがとうございます。
まだまだ序盤なのにドキドキしてくださって嬉しい限りです。
ルーちゃん離脱後の世界から話は始まってますが、半分くらいは回想の描写になる気がします。
第二話から先を書いているところですが、マインド・リフレクトに続き、またしても
トラウマなナツを器のでかいルーシィが受け入れるという図になりつつあります。
こういうのが好きなんですかね、私。
例によって、漠然としたオチしか考えてない件が心配です。
オレンジたべたいですか。
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